はじめに
筆者が本格的にイラストレーションを始めた頃のインターネットでは、イラスト解説サイトといえば、有力なものはhitokakuと黎明期のpixivに少しだけあった描き方解説イラストくらいで、Twitterで創作物を発信するという文化も根付いておらず、どうやって画力を上げればよいものやらと苦心したのが懐かしい思い出です。あれから気付けば10年近く、インターネット上の解説記事は充実し、今では誰もが片手でスマートフォンをタップするだけでイラストレーターやデザイナーになるための情報を手に入れられる時代になりました。
これからイラストレーションに足を踏み入れる方々に少しでも役立てばと、2015年に筆者が始めた「ekaki.org」というサイトも、そろそろ後進に道を譲る頃合いでしょうか。
しかし、10年近くが経っても、相変わらず進歩のみられないことが1つだけあります。
それは、クリエイターが使用するソフトウェア。
システムエンジニアやプログラマーといった"ソフトウェアを一番よく知っている人々"の間ではとうの昔に業界の標準的な地位を得ているOSS(オープンソースソフトウェア)が、クリエイターの間ではいつまで経っても普及する気配が見えないのです。
タダで使えてコピーし放題のソフトウェアと、金を取るくせにコピー制限がかかっているソフトウェア、同じような搭載機能なら、あなたならどちらを使いたいですか?
……もちろん前者ですよね?
この前者こそが、OSSなのです。
しかしながら、日本では数千円、あるいは数万円払って後者を使い続けている人が多数派のようです。
それはなぜなのか、もちろん筆者もそう考えました。
ですが、答えは考えるまでもありませんでした。
単に、OSSというものの存在を知らないクリエイターが多いのです。
もちろん、世の中のクリエイターがOSSの存在を知らずに財産を浪費しているからと言って、筆者に金銭的損失があるわけではありません。
しかしながら、「クリエイターになるには高いソフトウェアを買えるだけの財力が必要」という迷信のせいで、多くの才能がその花を咲かせる機会を失っているのもまた事実であり、これは社会にとっての損失とも言えるかもしれません。
では、今、筆者にできることはなんなのか。
思いついたのが、ここでこうしてクリエイターのためにOSSを紹介し、「OSSを知っているクリエイター」を増やすためのサイトを開設することでした。
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